baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 蓼科のサロンコンサート

 今年も蓼科のサロンコンサートの季節がやって来た。12日の日曜日がコンサートなので、僕は前日の土曜日に蓼科入りをした。お盆の初日なので渋滞を避けようと思い家を5時に出たが、中央高速はもう府中の手前から数珠繋ぎ、相模湖を過ぎても渋滞は一向に解消されず、結局双葉SA位まで断続的に渋滞という惨状で、普段なら2時間程で着くコンサート会場になる知人の山荘まで、懸命に擦り抜けを続けたにも拘らず3時間も掛かってしまった。それでも朝ご飯には間に合った。
 毎年この時期に開かれるこのサロンコンサートも今年で10周年、一度春に追加コンサートが入った為今回が第11回目と言う事で、取り敢えずこのシリーズは今年で中断する事になるそうである。山荘のオーナーは既に70歳を越え、夫人も古希まで残すところ数年となり、そろそろ体力的に大変になって来たと言う説明であった。100人を超す聴衆に休憩時間にサーヴィスするワインとスナックの準備だけでも大変なのに、演奏会終了後の演奏家との交流を求めて帰らない人達50人程に飲み放題付きの夕食まで提供されるのだから、幾ら使用人やボランティアのお手伝いがいても並大抵の事では無い。残念だが已むを得ないと思う。
 そんな節目のコンサートと言う事で、今年は過去に出演した演奏家を中心にプログラムが構成された。とは言え今年出演願ったのは、膨大な今までの出演者の極く一部に過ぎない事は言うまでもない。

 これが出演者の集合写真である。作曲家の新見徳英と美南子夫人のみ写っていない。後列右端が指揮者の矢崎彦太郎である。オーケストラがいないから、矢崎は新見との掛け合いトークと、ピアノの譜めくりである。その他の出演者は、ロシア人のワレンチナ・パンチェンコ、ベネズエラ人のコロン・えりか、コールアングレーのアレックス・ヴァン・ベーレン、チェロの長命康郎、ヴァイオリンの渡辺篤子、ピアノの菅野潤、ピアノ伴奏に井上敏子、山本裕子などである。変わり種はソプラノのコロン・えりかで、彼女は駐日ベネズエラ大使夫人でもある。ベネズエラで高名なギタリスト兼作曲家であるベルギー人の父親と日本人の母親との間に生まれた人だそうであるが、それは美しい声の持ち主であった。

 ワレンチナ・パンチェンコは美しいメゾソプラノで、ラフマニノフリムスキー=コルサコフドヴォルザークの歌曲をロシア語とチェコ語で聴かせてくれた。

 アレックスは今年はコールアングレーのみで、彼自身が発見した母国ベルギーの作曲家、アウグスト・デ・ベックと言う人の曲を披露してくれた。何れも美しい曲であった。アレックスは日頃ベルギーという平地の国で暮らしている為か蓼科の1400mと言う高度に不慣れで、息が苦しいと嘆いていた。

 コロンはレイナルド・アーンの歌曲の他に、父親が長崎の浦上天主堂の瓦礫の中から発見されたマリア像を題材として作曲した「アヴェ=マリア 被爆のマリアにささげる讃歌」や山田耕筰の「中国地方の子守歌」等を披露してくれた。ピアニッシモの、澄み切ったソプラノの美しさは聴衆の誰をも魅了した。

 新見美南子は新見徳英の伴奏で彼作曲の歌曲を歌い、聴衆が合唱すると言う趣向である。

 最後はトリオ・ルテシア奏するラヴェルのトリオであった。ヴァイオリンとピアノはパリ在住の演奏家で、中でも菅野は家族はイタリアでヴァカンス中だというのに、演奏会が引けたら直ぐに茅野駅に直行して東京に戻り、翌朝には仙台入りするという強行軍を厭わぬ出演であった。
 例年の事ながら演奏家と聴衆が一体となった和気藹々とした雰囲気のコンサートで、今年で中断する事を惜しむ声が後を絶たなかった。