baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 2030年代に原発ゼロと言う無謀

 もう9月も半分過ぎたと言うのに、相も変わらず連日の猛暑である。夜も熱帯夜が続く。この暑さも今週一杯と言う予報を、8月末からもう二度も聞かされた。その天気予報で、平年より8度も高い場所があると聞くと、一体地球はどうなってしまったのかと訝しい。地球が温暖期に入ったと言う説もあるが、温暖化ガスの影響も無関係ではあるまい。そんな猛暑のなか、政府が2030年代には原発ゼロ政策を決定した。近々予想される総選挙で与党の座から陥落する事を織り込んだ、既に心は野党の民主党が票集めの為の人気取りに走った提言に沿った結論である。この政府決定は、菅直人が辞任直前に無責任にゴリ押しして成立させた再生可能エネルギー特別措置法と同じく、野田佳彦のイタチの最後っ屁と言える。今脱原発を口にするのは容易い。逆に原発容認を発言するのには多大な勇気を要する。
 原発は危険な存在である事は論を俟たない。一旦事故を起こせば、周辺に長期に亘り極めて危険な影響を及ぼす。しかし、実際には1000年に一度の大災害と言われる東日本大震災とそれに続く大津波に遭っても、福島第二と女川原発は事故には至らなかった。女川に到っては周辺住民の避難所にさえなった。福島第一は第一世代の原発であり、技術レベルも安全対策も低かった。それを放置して来た政治や原子力産業界の怠慢は言うまでもない。また事故発生後の対応も、官邸の行動を初めとして事故を一層酷いものにした事は今や明白で、かなりの部分が人災であった。従い、福島第一原発の事故を前例に、全ての原発を止めると言うのは余りにも一面的な議論だと言える。言ってみれば、羹に懲りて膾を吹いていると言わざるを得ない。絶対安全はあり得ないが、それでも福島第二や女川の技術を更に磨き高めて、より安全な原発を作る努力をし続けるべきである。他方、この40年間で既に技術は色々進んでいるから、既存の原発についても反省すべき点、改善すべき点は常に積極的に改善しなければならない。また技術革新を維持する為には、引き続き新しい原発の建設も必要である。
 より安全、安心な原発の為には先ず、政治や産業界を含む第三者から決して影響を受けない、絶対的に独立した原子力規制組織を確立し、強力な権限を与える必要があろう。また原発立地の地盤の再調査など、既に稼働している原発の立地条件も必要に応じて再確認する必要がある。少しでも危険があれば、例え稼働中であれ、停止させる、或いは廃炉にする決断も必要である。しかし同時に、重箱の隅を突く様な、徒に不安を煽るのが目的の議論は避けなければならい。こういう時期には極端な発言をして売名をする輩が後を絶たないから、個々の議論には十分に注意する必要がある。
 原発が止まってしまった昨年以来、現在に至るまで日本の貿易収支は毎月赤字に転落している。最大の原因は膨大なエネルギーの輸入決済である。勿論、急に買い漁ったから足元を見られて高い物を買わされている事もある。しかし日本の様にエネルギーの自給率が極めて低い国は、何れにしても常に足元を見られるのは已むを得ない。更に発電コストの安い原発を一切止めれば、電気代が非常な値上がりをするのは避けられない。政府の試算では現在の二倍になると言う。その電気代の値上がりは単に家計を圧迫するのみならず、産業界にとっては死活問題となる。時には国の存亡をも左右する。例えば、現在欧州危機の一翼を担っているイタリアも、飛びぬけて高い電気代が足枷になって輸出が停滞し、現在の経済危機を招いてしまった。日本でも今後、再生可能エネルギー特別措置法の影響が徐々に効いてくる上に原発の稼働が細れば、メードインジャパンは益々競争力を失い、日本の産業界は望むと望まざるとに拘らず今以上に廃業や脱日本を考えざるを得なくなり、その結果益々日本の税収が落ち込み、国内雇用が悪化し、日本経済の負のスパイラルが加速する事になる。
 脱原発の経済的なマイナスは最早明らかだが、実は安全保障や外交の面でも大問題なのである。ここ3年間の間に突然日本の領土問題が一度に火を噴いたのは、一義的には鳩山由紀夫が日米関係を曾てないほど毀損してしまったからなのは間違いないが、日本の国力が衰退している事の影響も見逃せない。そんな情けない日本が、日々の生活の糧である電気を起こす為のエネルギーを今以上に世界中から買い集めなければならない弱みは如何ばかりであろうか。日本の場合は武力で強大になることは財政的にも技術的にも国民感情からもあり得ないから、経済で力を持たねばならない。その経済力がバブルの崩壊後立ち直ることなく急激に衰退してしまった。しかし外国から見れば武力も経済力もない上にエネルギーを買い漁らねばならない日本など、怖くも何ともない。そんな侮られた日本が存在感を復活させる為には、一にも二にも経済力の回復であり、高い技術力の維持であり、エネルギーの自給率の向上である。日本は経済が回復し、高い技術力が誇示出来、エネルギーの海外への依存度が下がって初めて安全保障面でも外交面でも存在感が発揮できるのである。その為に、これからもやはり原発と上手に付き合って行く必要があるし、MOXへのシフトはもとより、もんじゅの研究も投げ出しては拙かろう。
 また環境面への負の影響も無視してはなるまい。政府は今日、3年前に世界に公約した2020年に1990年比25%二酸化炭素を削減するという目標を撤回すると決めた。この公約自体が鳩山由紀夫の思い付きに過ぎないいい加減な物だった訳だが、とにかく一旦公約したものを撤回すると言う。しかし、それは単に公約の撤回に留まらず、京都議定書を纏めるなどで世界の環境問題をリードして来た日本の大方針転換である。いままで中国、米国、インドの如き二酸化炭素の垂れ流し国に対する苦情も言えなくなる。そんな無責任な事を、レームダックの野田政権が最後っ屁で勝手に決めるに任せて良い筈がない。政権交代したら、真っ先に見直して欲しいものである。
 尚、本稿に対するコメントに限り、賛否両論とも一切掲載しないので予めご了承願う。