baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 東京シティフィルの演奏会

 今日は東京シティフィルのティアラ江東定期を聴きに行った。矢崎彦太郎の棒で、ドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」、阪田知樹のピアノでラヴェルの「ピアノ協奏曲 ト長調」、そしてベートーヴェンの「交響曲6番」と言うプログラムであった。最近は矢崎が振る事がめっきり減ってしまった東京シティフィルだが、今日の演奏会は久しぶりの矢崎の棒で、オケも酷く楽しそうに見受けられた。
 ドビュッシーは10分程の小曲だが、何度聴いても飽きない名曲である。西洋音楽の転回点となったと言われ、ピエール・ブーレーズをして「牧神のフルートから音楽の歴史は息遣いを変えた」と言わしめたそうであるが、その肝心のフルートが少し線が細く輝きに欠ける事を別にすれば、フランス物を振らせれば右に出る者はいないと言われる矢崎の棒は、この名曲の素晴らしさを見事に引き出し、何処を切ってもドビュッシーの音が溢れ出て来るようであった。
 ラヴェルは若干19歳の新進気鋭のピアニストとの共演であった。阪田はさすがに所々で若さが出るが、非常に繊細な音作りで将来が楽しみである。この曲は、時にジャズの様な音で僕は思わず笑わされてしまったりするのだが、静かな2楽章は抜群のオーケストレーションと相俟って感動的であったし、全体にラヴェルの個性がしっかりと滲み出る演奏で、ここでも矢崎の面目躍如であった。
 圧巻は休憩後の「田園」である。矢崎と言えばフランス物で、彼のベートーヴェンは久しく聴いていないが、重厚なベートーヴェンを重すぎず軽すぎず、実に巧みに演奏していた。特に印象的であったのは、4楽章に入ると客員コンサートマスターの松野弘明が椅子から飛び上がり、足を踏み鳴らさんばかりなら、長明康郎率いるチェロは風になびく稲穂の様に長明に合わせて左右に揺れる、そんな風にオケ全体が何かに憑り付かれたような熱演で、その熱気が客席にまで伝わって来て聴衆の肌が泡立つのである。オケのモチベーションをあそこまで高める矢崎の棒に、何か鬼気迫る物を感じてしまう名演奏であった。鳴り止まない拍手の陰から、あちらこちらで嘆声が漏れていた。決して評価は高くない東京シティフィルであるが、今日の演奏は感動的な、聴衆の心を揺する名演だったと思う。特に弦は良く響いていた。