baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 アルジェリア人質事件

 パリ在住の友人から電話が掛かって来た。日本ではアルジェリア人質事件はどう受け止められているかと訊いて来たのである。彼は民間人ながら、来月日本政府の仕事でアルジェリアに行く予定になっているのだが、日本から何の連絡もないので行くのか行かないのかはっきりしない、ビザの手配などもあるので日本での今回の事件の受け止め方が気になっている、と状況を訊いて来たものである。僕はここ連日のニュースのトーンを説明し、「日本の政府関係者がまたテロリストに襲われたりしたら今度ばかりは安倍政権も危なくなるから、予定は延期になるだろう」と予想を伝えた。場所がアルジェだと言うから或いは予定通りと言う事もあり得ようが、隣国が戦争状態で何時またテロが起きるか分からない今、不要不急の仕事を予定通り消化する可能性は低いと思ったのである。
 その際に彼曰くは、フランスは元宗主国であり、独立戦争も闘ってアルジェリア人の事は良く知っているから、今回の事件は危険を承知で出掛けた人間がたまたま犠牲になってしまったものと、非常に冷静な反応だそうである。フランス人も何人か犠牲になっているが、もとより覚悟の上で行っていたのだろうという事で、アルジェリア政府への批判は一切なく、日本ほどは大きなニュースにもなっていないらしい。彼自身は、夫人同伴でアルジェリアに行く事には何の抵抗もないと言う。
 日本ではアルジェリアの事が一般には殆ど知られていないけれど、一旦何かあれば人命尊重は日本とは雲泥の差がある事はアルジェリアを多少知っている人には常識である。元々アラブ系の民族は歴史的にも、比較的簡単に人命を奪っていると言ったら語弊があるだろうか。実際アラブの地へ行けば、白人のミッションが斬首された広場だとか、姦通した男が袋詰めにされて投げ落とされたミナレットだとか、囚人を斬首した井戸などがあちらこちらに遺跡として残っている。そして第二次大戦後に独立したアルジェリアの教科書は、30年ほどの間ソ連であった。ソ連、今のロシアのテロに対する仮借の無さは、2002年のモスクワ劇場人質事件でも明らかである。42人のチェチェン過激派が922名の人質を取ってモスクワ劇場に立て籠もったのに対し、ロシア政府は交渉を一切拒否して4日目にはスぺツナズを突入させて犯人は全員殺害、その際に使った毒ガスで129名の人質が窒息死している。今回同様、人質の生命よりもテロリストの殲滅と同様事件再発の抑止を優先したものである。
 ソ連はその昔、領空侵犯をした大韓航空機の旅客機を戦闘機で躊躇なく撃墜した。乗員乗客は、当然全員死亡している。今なら米国でも、旅客機が本土上空でコースを外れたら迷わず撃墜するであろう。9・11事件の教訓である。今日本で同様の事件が起きたらどうするか、旅客機であれば恐らく誰も撃墜の決断は下せまい。自衛隊スクランブルは掛けても警告か精々が威嚇射撃までで、最後は大惨事を見守るか強制着陸に成功するか、と言った処であろう。日本は平和で良い国だと心から誇りに思うが、人命に対する日本の常識は恐らく世界のレベルで見るとむしろ異質であり、平和呆けのレベルであると思う。海外に出掛ける時は、仕事ならばリスク分析も当然しているだろうが、呑気に観光旅行に出かける時は最悪の事態は常に想定しておく方が良い。外国では、警察と雖も当てには出来ない。
 パリの友人にはお節介は承知の上で、フランスは現在マリでの軍事行動で戦時下にあるのだから、何時テロが起きてもおかしくない。不要不急の用で人混みへ出るのは控えた方が良いと助言した。彼も今は街に兵隊や警官が溢れていて、正に戦時下であると答えていた。
 それにしても10名の邦人々質が犠牲になってしまった事は残念無念で、遺族の思いを慮れば言葉もない。飛行機事故の時に痛感したが、何の助走もなく突然遺族から離れた地で事故死するのは遺族には俄かに現実としては受け入れ難い、想像に絶する悲惨な別れとなる。ましてやテロリストや政府軍の手に掛かったとなれば、その痛恨の思いは推し量るべくもない。今更ながら、犠牲者のご冥福を祈るのみである。