baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 大西洋クロマグロの国際取引禁止

 ドーハで開催中のワシントン条約締約国会議で、モナコが提案しEUや米国が賛成している大西洋クロマグロの国際取引禁止の提案について18日に議論が行われ採決されると言う。この提案は比較的最近になって降って湧いたのか、日本が必死に反対国を纏めているとか、或いは賛成国35ヶ国に対し反対国は日本を含め3ヶ国で日本危うし、の様な報道ばかりが目立ち反対の論拠が一向に報道されないので何だか日本がただムキになって反対しているような印象すら受ける。
 しかし、このモナコの提案は捕鯨反対のような感情的な、何が何でも鯨が可哀想だから捕ってはいけない、という暴論ではなく資源がこのままでは枯渇するから資源が回復するまで暫く保護しよう、という発想だから何が何でも反対というのは却って外国に誤解されてしまうのではないかと危惧する。クロマグロの資源枯渇問題はここ数年随分クローズアップされ、一時は日本のスーパーでもマグロの値段が跳ね上がった時期もある。従い、国民も或る程度の問題意識は持っていたものと思う。
 その間、実際には水産庁は資源の保護の為に乱獲をしないように色々な提案をし、また国際監視員の設置なども提案して実現させて来たそうだけれども、ここの処の報道にはそういう地道な努力は一切触れられていない。日本の提案は余り実効が上がっていないのかも知れない。何れにしても、今はひたすら反対国を集めて票勘定している様子ばかりが報道されるので心配になる。海外でも日本の姿勢は、単に反対、問答無用で反対、と受け止められてはいないだろうか。反対するにしても、もっと上手に反対理由を説明しなければ、まるでマグロを食べたいから規制されたら困る、という利己主義にしか見えない。
 日本人だから僕もマグロの刺身、トロの握りや鉄火丼など大好きだが、その僕でも何故ここまでムキになって反対するのか実は良く分からない。モナコの主張によればマグロ資源は嘗っての15%にまで減少しているそうだ。それが科学的な事実に基づいた数字であるなら、僕もマグロの乱獲には反対である。日本の業者団体は全面禁止反対、巻き網漁を取り締まれ、と抗議集会を開いた。巻き網漁が良いとか悪いとかもあるのだろうが、一番悪いのは水揚げを過少申告する漁業者であり、どうしてそこまで悪い事をするかと言えば日本が何でも高値で買うからである。
 しかし漁業者の段階で水揚げを正確にコントロールする事は現実には困難であるから、結局は漁獲量を無視して輸入する日本が悪いと僕は思う。日本が前年度の輸入実績と総漁獲量から割り出した輸入割当制を先ず敷くべきであった。同時に、マグロの消費が急激に増えている中国や韓国にも同様の割当制を敷くべきであった。ゾウの密猟と同じで、密猟でも偽の証明書を付けて象牙を売りに出せば日本などが高値で買うから未だに密猟が後を絶たない。売りに出たものは証明書があれば何でも買うと言うやり方は、相手が貧しくて遵法していられない場合には罪である。ましてや未だ取引が禁止されていないマグロにおいておやであった。
 今となってはこんな議論は手遅れかも知れないのだが、クロマグロは日本の総消費量の10%、その中に占める大西洋クロマグロは半分だそうだから庶民にはさして影響のある話ではない。当分クロマグロは口に入らなくなると聞くと少し淋しくなるかも知れないが、実は今までも普段からそれ程食べていた訳ではあるまい。スーパーに並んでいるマグロに本マグロは滅多にない。それでも大西洋クロマグロは総漁獲量の80%が日本で消費されているそうだから、どう贔屓目に見ても日本が食べ過ぎなのである。日本が何でも高値で攫っていってしまうので、もう長い事滅多にマグロが口に入らなくなった欧州の人々がいるのではなかろうか。
 本件では被害を蒙る国内業者があるのだとは思うが、現実に資源が急速に減っているのは間違いないのだから余り意固地に反対せず、冷静な議論を重ねるべきであろう。つまり、資源量把握の科学的な妥当性、国際取引禁止という事ではなく国別の総漁獲量の割り当て、総漁獲量に見合った国別輸入量の割り当て、というのが究極の到達点ではなかろうか。今回は国際取引全面禁止論が採択されるかも知れないが、それはそれで已むを得ない。問題は国際取引禁止といっても漁獲自体が禁止される訳ではないので、今回の規制はいかにも中途半端である事だ。ならば日本としては最終ゴールをしっかり見据えて、利己主義に見えないように各国にしっかり論拠を説明しながら論理的な妥協点を目指し、感情的な、或いは自己都合に見える反対一辺倒は避けるべきである。