baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 大国への道をひた走る中国

 上海の万博が今日から始まる。中国が威信を掛けて開催する万博だが、未だ一部工事が終わっておらず旧ピッチに仕上げを急いでいるというのも如何にも中国らしい。上海市内では世界中からの来訪者に恥をかかぬよう、美化とモラル、例えば整列乗車、などのスローガンが大分以前から街中の到る所に張られていた。交通渋滞は以前の自転車渋滞が今は完全に自動車の渋滞に置き換わり、立体交差の分岐点などでは長蛇の列が出来てしまい、更には割り込みが後を絶たず中々前進しない。すでに上海の交通渋滞は、交通渋滞の代名詞のようになっているバンコクジャカルタ並みになっている。
 今の中国は丁度1964年に東京オリンピックを開催し、更に1970年に大阪万博を成功させて一気に世界の経済大国に駆け上がった日本を彷彿とさせる、いや、それ以上に早いペースで一昨年の北京オリンピックに続く今回の万博開催である。中国もいよいよ、押しも押されもせぬ世界の大国入りを果たしたと言える。元々世界の人口の2割を有し、更には台湾を筆頭に東南アジアを中心に海外にも多数の同胞を有する中国が大国であるのはもとより自明である。
 しかし、一方で平和馴れした日本が手放しにその急成長を喜んでもいられないと思う。覇権主義全体主義、厳しい国家統制、非民主々義、軍拡主義、など多くの日本人にはピンと来ないながらも警戒を要する問題点を多く孕んでいるからである。僕が知っている中国は、30年近く前の、未だ毛沢東語録の学習会が毎週義務付けられていた時代で、現代の中国の事は良く知らないのだが、一国の文化や習慣が僅か20数年で大きく変わるとは思えないので本質は見誤っていないであろう。つまり、中国人は元来勤勉で利口な民族である事は間違いないが、一方でこの50年間にチベット併合、内蒙古の動乱、新疆ウィーグルの弾圧、など少数民族の拷問、弾圧や、文化大革命の如き暴力が国中を席巻したという歴史を経験している。そして民主化を求める市民に発砲して多数の死傷者を出した天安門事件や、一昨年のチベットでの騒乱弾圧、それに続く新疆での民主化運動弾圧はまだ記憶に新しい。
 少数民族の併合や弾圧は報道管制も厳しく実態は中々国外には知られていないのであろうが、文化大革命はその一端を知っただけでもそら恐ろしくなる話である。その一例を紹介しよう。作り話だろうという人もいるが、その男が語った時の何とも形容し難い、見るのも耐えがたい程の暗い目付きを思えば、僕は真実を語ってくれたと思っている。
 僕の知っている中国人はその頃は未だ10歳前後の子供で、妹との二人兄弟で天津近郊に住んでいた。母親が日本人との混血だったという理由と、父親がインテリで家庭が比較的裕福だった為に紅衛兵反革命的と指弾され、両親が自己批判を強いられた挙句に拉致された。両親とはそれきり二度と会える事はなかった。彼と妹は親に裏山に隠され、両親が拉致されるのを目撃したが、それ以降は昼間は山に隠れて暮らす浮浪児になった。幸い親切な近隣の人が時々夜中にそっと食べ物を出して置いてくれたりしたが、普段は山の中で動物を捕まえたり草を食べ、時には農作物を盗んで命を繋いだ。それこそ反革命分子の処刑は毎日のように目撃した。処刑しないと自分が紅衛兵反革命分子のレッテルを張られてしまうので、皆競って処刑に参加した。反革命分子と断じられた人々は、後手に縛りあげられ、首から「自分は反革命分子です」と書いた札をぶら下げられ、その下に罪状が書き連ねてある。そして裏山で刺殺されたそうだ。子供心にも捕まったら殺されるとの思いで、本当に毎日が恐かったと語っていた。幸い、遠からずして文革も下火となり、近所の人が匿ってくれるようになったそうだが1年位は昼間は山中で隠遁生活をしたそうだ。動物を捌くのは上手い、と自慢していたが、未だに文革時代の事はその時一度だけで、普段は話したがらない。こんな話はどこにでもあるのだろう。しかし僕がよく出入りしていた時分は、そして今でも恐らく、文革の話は一般には禁句であった。
 軍事力の増強と遠隔地での艦隊活動の活発化も注意を要する。戦後の日本は厭戦気分が支配してしまい、こと話題が軍事に関わると現実から目をそむけてしまうが、残念ながら現在の外交は軍事力の裏付けがないと全く声が通らないのが現実と言えよう。日本は米国の傘の下にいるから自前の軍事力は大したことはなくても何とか一応大国の仲間入りをさせて貰っているが、所詮は虎の皮を被っている羊の如く最後の睨みは効いていない。そこへ行くと中国は毎年、日本の8倍からの予算を軍備に注ぎ込んでいる。人件費や物価の違いを考慮すれば、恐らく装備に費やしている費用の実態は自衛隊の何十倍にもなるのではなかろうか。そして中国は外交にも内政にも武力が必要な事を良く理解しており、またその為の武力行使には躊躇はない国と思うべきである。台湾紛争は何時再燃しても可笑しくないし、南シナ海どころか太平洋で日本と小競り合いが起きても可笑しくない。小競り合いと言うのは、単に日本が直ぐに尻尾を捲くからである。実際、数年後に中国製の航空母艦が就航すればもう日本など物の数にも入らなくなる。南シナ海や太平洋の航路と制空権は沖縄を含む在日米軍に頑張って貰わないと維持できなくなる。何れインド洋へ進出するのも時間の問題であろう。その時には、やはり着々と装備を増強しているインド海軍との軋轢も懸念される。話は逸れるが、こうして見ると自衛隊の何と貧弱な事か。普天間基地は国外へなどと能天気な事を言っている場合ではないだろうに。
 話を戻す。経済的にも中国には不透明が付き纏う。中国製品の安値は時として計算の埒外の時がある。製品価格が、国際相場が立っている原料価格よりも遥かに安いなど、不自然な事例が幾らでもある。国営企業は借入金の金利も払わない、とか、為替が実態を反映していないとか、色々な要素はあろうが、やはり世界市場で伍して行く為にはもっと統制を弱めて世界水準の開かれた経済活動に進化させないと、何時までも右肩上がりは続かないであろう。また、1960年代から徹底した一人っ子政策の弊害で、遠からず日本以上の高齢化社会が始まる、とか沿岸部と内陸部の所得格差が一層開く、とか中国の内包する問題も益々顕在化してくるであろう。そうなると問題を国外に求めて国民の目を逸らす政策がとられる可能性も否定できない。南シナ海のガス田問題でも、中国は一歩も引かないであろうから日本が少しでも強気になればいつでも紛争になりかねない。
 僕は常に2050年頃には中国は分裂すると予言しているのだが、そんな戯言はさて置き、何れにしても中国人は本質的には農耕民族というよりは狩猟民族的な思考が強いし、今の中国の本質はやはり共産主義独裁国家なのである。顔が似ていて古来の文化が似ているからと、日本人と同類だと思い込んでいると手痛い事になりかねない。
 そういう警戒心は決して忘れてはならないが、隣国の大国が益々発展して行く事を前向きに捉え、心から祝福し、共に上手に補い合って一層良い国になろうという思いを新たにしたい。その為には一刻も早く、経済と安全保障という我が国の土台をしっかり固める必要がある。