baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 こんどは石原伸晃の失言〜9・11は歴史の必然

 鉢呂吉雄が程度の低い大失言で折角の大臣の椅子を棒に振ってしまったが、翌日は石原伸晃が「9・11事件は歴史の必然」だと発言した。日本国内では余り大きな問題にはならないかも知れないし、基本的には歴史と宗教の認識に関わる問題であるから鉢呂吉雄の失言に比べればそもそも次元が異なるが、自民党の幹事長の発言だけに週明けに海外で反発が出るかもしれない。これも政治家としては失言の類であると僕は思う。彼は補足説明として「キリスト教世界に対するイスラム教世界の戦い」と言う様な、知った風な捕捉を付け足していた。しかし異宗教間の確執がある事は事実だが、だからと言って9・11のようなテロが必然であると言うのは、僕に言わせれば明らかに誤った認識である。イスラム教は好戦的な宗教であると言う西側の宣伝が、すでに石原伸晃の頭の中で固定観念化されているように思う。この人は父親の存在が大き過ぎ、そして自分が父親のレベルに遥かに及ばないから焦りがあるのかも知れない。そうであれば気の毒な境遇に育った気の毒な人なのだが、それにしても歴史の必然とは酷い言い方をしたものである。
 歴史の流れの中で見るならば、イスラエルパレスチナの地に強引に建国し、其処へ主にロシアや東欧、欧州、北アフリカ、中東に離散していたユダヤ人を集めた事が現在のテロの発端である、とは言えると思う。十字軍の恨みつらみは流石に大昔の話であり、その後オスマントルコ帝国が長く君臨していたから十字軍の流れは一旦絶ち切れていると思う。となれば今の問題の根はやはり、イスラエルの建国である。それでも建国当初はイスラム教徒のパレスチナ人との共存が可能であったし、今ほどの敵対関係にはなかった。やはり20世紀も60年代に入ってからのイスラエルの領土拡張政策、領土拡張を支える軍備の増強と周辺アラブ諸国への侵攻、その傍若無人な政策を国連では非難しながらも直接はむしろ是認し支援する米国。その結果はガザに侵攻し、ヨルダン川の西岸に違法入植し、エルサレムを自国領土に編入し、分離壁を一方的に建設し、ついにはアラブ系イスラエル人の追放をマニフェストにして票を集める政党まで出て来てしまった。
 イスラム教徒は国家単位ではなく、宗教単位の同胞意識が強い。だからこの半世紀の間に同胞であるパレスチナのアラブ人がこれだけ徹底的に土地を収奪され人権を蹂躙され虐殺され続ければ、イスラム教徒の間には心情的に反イスラエル感情が昂ぶって当然である。そのイスラエルを陰に日向に支援する米国は明らかにイスラム教の仇になってしまった。その米国は、9・11以降は対テロ戦争の名の下にイラクに攻め込みフセインを捕縛して傀儡政権に処刑させ、アフガニスタンに攻め込みタリバンを攻撃し、他国でありながらパキスタンに特殊部隊を不法侵入させてオサマ・ビン・ラーデンを暗殺した。
 そういう意味では、イスラエルも米国も世界の四分の一の人類の反感を買っているのは間違いない。勿論イスラム教徒なら誰でもフセイン大統領を、タリバンを、オサマ・ビン・ラーデンを支持するかと言えば、極く一部の例外を除けば実は西側と同じ様に批判的な筈である。しかし同時に、いかに論理の矛盾があってもやはりイスラム教徒への同情は根強い。湾岸戦争で米国がクゥェートに侵攻したイラクに爆撃を開始した時には西側はこぞって拍手喝采し、僕も余り深く考える事も無く単純に米国を応援した。しかし冷静に考えれば普通のイスラム教徒は、イラクのクゥェート侵攻は非としながらも西側の一致団結したイラクに対する一方的な攻撃は素直に支持できないのであった。例えばその時にたまたまイラクのクゥェート侵攻は怪しからんなどと話をしていたパキスタン人は、突如自分もイラクに行き、イラクの同胞と共に米国と闘いたいと興奮した程である。頭脳明晰で、大学教育まで受けているインテリのビジネスマンがである。
 特にこの四半世紀のイスラエルの右傾化は甚だしく、シャロンにしてもネタニェフにしても歴代首相はタカ派ばかりで、イスラエルによるパレスチナ人の虐殺と領土拡張は留まる処を知らない。ハーグの国際司法裁判所が何を言っても頭から無視である。違法な入植地からの撤退を国連が幾ら決議しても全く聞く耳を持たない。まるで北朝鮮と同じ気違い国家なのだが、核武装しているだけ北朝鮮よりも更に始末が悪い。こんなイスラエルは、多少興味を持ってニュースを見ていれば別にイスラム教徒でなくても普通なら腹が立って当然である。竹島を不法占拠して軍隊を撤退させない韓国も、イスラエルに比べれば未だ可愛いものである。
 しかし、だからと言って9・11テロを肯定するイスラム教徒は先ずおるまい。9.11のようなテロはイスラム教の教義にも悖るから、そういったテロを肯定するイスラム教徒はまずいない。それは、日本人の中に格マル派や中核派がいるから、日本人は暴力革命を肯定する民族であると断じるのと同じレベルの議論だと思う。そもそもキリスト教徒だ、イスラム教徒だと言う前に、イスラム教徒と雖も先ず人間なのである。9・11のWTC崩落の映像を見て、涙を流すインドネシア人が沢山いた。そんな事を何も知らずに「歴史の必然」などと偉そうな知ったかぶりはして欲しくなかった。一方的にイスラム教徒を非難するのは片手落ちだ、と言いたかったのかも知れないが、そういう論理自体がイスラム教=テロリズムという前提に毒されていると思う。