baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 TPPと日本の農水産業

 野田佳彦が、11月のAPECまでにTPPに対する日本の方針を決めると言っているようである。TPPについては既に1年前に菅直人が突如加盟すると言い出したまま、何時もの様にそれきり放り出してしまったから、時間的には既に充分な検討期間があったと言える。たまたま大震災と言う格好の口実があったので、臭いものには蓋をするしか能がなかった民主党政権はここぞとばかりに、そのまま無策に放り出してしまったものである。同じ民主党政権ではあるが、初めて具体的に懸案を検討するのみならず、期限を切って結論を出そうと言う仕事の仕方は大いに結構である。
 TPPが議論される時には、必ず一次産業、特に農業と二次産業の相反する意見が際立つ。経団連などはTPPの推進派であり、農業や漁業従事者からは反対の声が大きい。そして農業、漁業を票田とする議員の反対の声は喧しい。しかし、いみじくも玄葉光一郎が言っているように、資源のない日本の取るべき途は自ずと見えている。FTA締結で日本を二歩も三歩も引き離している韓国の昨年の貿易額の伸びは、一昨年比7割にも上ったと言う記事を少し前に目にしたが、工業製品を輸出するに際しては相手国と互恵協定を締結している国に平場で勝負を挑んでも所詮勝てる筈がない。
 農水関係者からは強硬な反対論が引きも切らない。しかし、工業製品の世界でも日本は高い人件費、電気代、原料代に加え、土地や建屋も高い、何でも高い高いづくしの中で、非常に高い生産効率、厳格な品質管理、優れたデザインなどを基に工夫に溢れた製品を出し続けて、今日までに世界市場に日本製品の地歩をしっかりと確立して来た。外国では、日本製品は高価だが長保ちするし故障しないと、安価品とは明らかに一線を画す市場を持っている。
 農水産業にとっても、日本のコストが高いのは事実だが、だから政府に保護して貰って延命を図るというのはどう考えても先の無い話にしか思えない。生産効率を上げ、品質を上げ、そして多少高価でも安心して消費して貰えるという安心感で低価格品と勝負をするべく工夫と改善が求められているのである。実際、最近は近くのスーパーには一時ほど中国製の野菜は並べられていないし、中国品の値段が半値近くても敢えて国産品を買う人が結構多い。食の安全には日本人は敏感である。
 TPP反対と言う事は即ち関税障壁撤廃反対と言う事で、政府に保護されて国民にそのツケを押し付けようと言うのだから、虫が良いと言われても仕方がない。その片棒を担ぐ代議士に到っては、安易な票集めだけに走って肝心の国の将来は全く考えていない訳である。TPPに加盟したからと言って、明日から直ぐに安価な農水産物が大量に流通する訳ではない。段階的に実施される筈である。その間に少しづつ体質改善を図る努力をして欲しいのである。その為には、政治家にはただ農水産業従事者と声を一にしてTPP反対と無責任な声を上げるのではなく、海外から入って来る安価な農水産物に日本品が対抗出来るようなビジョンを打ち出す責務がある。
 実際に日本の農業は大変な転機にあるようである。先日偶然ある農家の人と、その庭先で話込む機会があった。後継者がおらず、ご主人は今年で90歳になると言う。夫人と二人で農業を続けているが、流石にもう体力的にも辛くなり田圃を10枚、2000坪を売りに出しているそうである。しかしこの半年間、未だに買い手がないと言う。彼に言わせれば、農業をやっても儲からないから誰もやりたがらない、という事のようである。御当人は未だ矍鑠としていて、酒の勢いも手伝って饒舌であったが、夫人の方は大分老け込んでいるように見受けられた。そして、話の内容は、日本の農業はこのままでは先が無いという悲観論で終始した。
 農業にはズブの素人なので、ただただ拝聴しているしかなかったが、現実が非常に厳しく、経営が難しい事はいやでも伝わって来た。その現実を90歳の老人に打破して欲しいとは言わないが、やはり若い力で何とか打破して貰うしかない。食は国の根幹を成す特殊な分野であるから、国として必要があれば何らかの手を打つ事は已むを得ないであろう。過渡期には補助金的なものも、止むを得まい。しかしそれが関税障壁や輸入制限といったような直接的で何ら工夫のない保護であれば、日本の農業は本当に近い将来に消滅してしまうと思う。