尖閣諸島国有化

　尖閣諸島が正式に国に売却された。値段を吊り上げようとする地権者に東京都が何とか少しでも実勢に近付けようと努力をしていた処に、国がのこのこと名乗りを上げ、地権者の思う壺に嵌ってしまった。石垣島の地価から類推すれば、妥当な価格は5億円と言われる、島としては殆ど使い道のない土地に20億5千万円と言う血税が注ぎ込まれての決着である。東京都が幾らで交渉をしていたかは明らかにされていないが、石原慎太郎の記者会見での口ぶりからも、国が値段を吊り上げて交渉を横取りしたのは明白である。無策無能の民主党が政権を担っている事のツケがまた膨れてしまい、無駄な歳出がまた増える。面子だけの為に慌てて横槍を入れずとも、後で都から購入すればもっと安くて済んだものをと返す々すも腹立たしい。
　この国有化に対して、中国がまたエスカレートし始めた。北京の日本大使館に掛けられた波状デモが整然と組織されていた事からも分かるように、反日デモは大きな組織の指導の下で行われている。さらに中国政府は対抗措置を打つと宣言し、中国軍が動く事も示唆している。こうした一連の動きを見て誰でもが思い出すのが、2年前の菅直人−仙石由人が無様に腰砕けになって中国側の思うままに漁船衝突事件の船長を不起訴のまま釈放してしまった事件である。あの時は日本の援助の一端をになうべく現地調査をしていた日本人が、スパイ罪と言う汚名を着せられて人質に取られもした。北朝鮮の拉致にも似た、信じがたい国家の暴力であった。今回はこちらに人質がいないから向こうもまさか人質を取ることまではしまいが、同様の脅しや暴力が振るわれると覚悟はしておいた方が良い。何しろ法律などあって無きに等しい、野蛮な国が相手である。同時に、何時までもこの種の脅しや暴力に尻尾を巻いていては脅しの連鎖は止まらず、日本の主権は侵害される一方となる。既に日本も動き始めたのだから、今度ばかりはどんな脅しや暴力があろうとも、断固筋は通してやり通さねばならない。親中派知識人と称する人々の口から、中国に阿る言葉が最近頻繁に聞かれるが、友好と阿りは明らかに次元の違う話である。
　反日デモが起きると言う事は、幾ら経済規模で日本を抜いたと雖も中国人が未だ未だ日本に劣等感を抱いている証拠である。本当に自分より下の国にはデモは掛けないと言う。確かに、言われてみればその通りである。だから韓国も反日デモはするけれど、日本では中国や韓国を相手にデモはしない。日本がデモをするのは対米国だけである。そう思って見ていれば、デモを掛けられたり国旗を焼かれるのも未だ余裕を持って見ていられる。少なくとも、同じレベルになって熱くなってはならないのである。しかし日本特有の事を荒立てまいとする、従来の様な叩頭腰折れだけはもう繰り返してはならない。
　ナショナリズムは小児病だと言う。ナショナリズムを日本語にすると、一番近いのが国粋主義であろうか。だとすると、少しニュアンスが異なると思い英和辞書を引くと、愛国心と言う訳も載っている。しかし英語には愛国心という別の言葉があるので、この訳も正確ではない。愛国心は誰でも持つのが当然の心であるが、ナショナリズムは少し危険、或いは狭量な意味だと僕は思っている。かと言って国粋主義ほど排他的ではない。おそらく僕の感覚はかなり一般的で、だから昨今は日本語でも片仮名でナショナリズムと呼ぶ事が多いように思われる。
　そのナショナリズムは確かに行き過ぎると危険な思想になるし、また小児病のように簡単に伝播してしまう。徒に狭量なナショナリズムに走る事は、僕も含めて自重しなければならないと改めて思う。しかし、ケネディはキューバがソ連のミサイル基地になりそうになった時に断固としてキューバを海上封鎖し、ミサイルの陸揚げを阻止した。冷戦時代の最中の、一触即発の危機であった。結果は成功であった。日本も今は冷静に対処しなければならないが、隣国に舐め切られるような弱腰では国は保全出来ない。硬軟交えて、巧みな外交交渉も重ねて、隣国との関係を深化させねばならない。こういう時にこそ、実は強力なリーダーシップが必要とされるのだが。