baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 インドネシア旅行記(9) 〜 ポンティアナック

 ポンティアナックは西カリマンタンの州都であり、赤道が走っている、海に面した中都市である。まだスルタンが現存している。浜辺は泥浜でぬかるんでいる所が多い。河沿いに高床式の家が張り出し、子供達は素っ裸で河で遊んでいる。
 

(やはり裕福な人は川沿いには住んでいないようだ。それでも各戸天然水洗トイレ完備である。)

 (スルタンの家。居住区は裏にある。今でもスルタンは地元民からは敬われ、別格扱いらしい)

 ポンティアナックにわざわざ行ったのは、赤道を跨いでみたかったのと、日本軍が大虐殺(8月22日本ブログ)をした地をこの目で見たかったからである。実際にはポンティアナックから少し離れた場所が斬首と埋葬の地であるが、そこまでは時間的に行けないので日本軍が蛮行を振るった市内を見るに留めた。勿論市内でも大量の血が流された。
 この地には中国系の人が多い。それも客家人が多い。インドネシアはフィリピン同様福建省出身の人が多いのだが、西部カリマンタンスマトラの一部の地域の華僑には客家人が多い。オランダ時代に警察や役所に雇われたのは華僑が多かったそうで、オランダの威を借りて大分威張り散らし被植民のマレー系住民に当たったようだ。僕の印象では客家人は他の地域の中国人に比べて猜疑心が強く周囲の人とは余り馴染まないから、オランダ人が統治の手足に使うにはうってつけだったかも知れない。未だにその痼が残っていると聞いたが、流石に旅行者に分かるようなものではなかった。
 町にはクイティアオ(東南アジアなら何処にでもあるが、中国由来の米粉製の太麺。インドネシアではポンティアナックのクイティアオは日本の讃岐うどんの如きブランド)の店が多く、マレー系の人間も沢山入っていた。これを牛肉(サピ)や野菜と一緒に炒めたクイティアオ・ゴレン・サピに激辛のチリソース(サンバル)をかけて食べると頬っぺたが落ちそうに旨いのである。更に牛肉野菜スープでも付けば僕には最高のディナーであった。当時はジャカルタにもポンティアナックの中国系の人が同じような店を出していて、時々中国人街まで食べに行ったものだ。一度これを食べてしまうと他のインドネシア料理屋のクイティアオは食べる気にならなくなる。
 ポンティアナックでインドネシアの他の地と異なって印象的だったのは、店先のテーブルでコーヒーを飲むカフェみたいな店(ワルン・コピ)があったことだ。そこだけ僕にはベトナムの雰囲気であったが、後から聞いたらマレーシアも同じらしい。確かにポンティアナックから海沿いに6時間位走れば東マレーシアのクチンに着く。インドネシア語カリマンタンの方言はマレーシア語と似ていて、例えばアパがオパになる。当然、文化や習慣も共通している事が多いのだろう。
 そしてカリマンタンと言えばダヤック族である。ダヤック族はカリマンタン(ボルネオ)先住の山岳民族で、顔や体に入れ墨を入れる。アイヌの人も顔には入れ墨を入れたが、体にはいれなかったと思う。ダヤックの人は腕や体、女性は乳房にも刺青を入れたようだ。そして女性は子供の時から耳たぶに錘をぶら下げて耳たぶを伸ばし、首に輪を嵌めて首を長くする風習があった。今はその風習も廃れていると思うが僕がインドネシアに駐在していた時には未だ年配の女性にはそういう人がいたらしい。僕自身は目撃したことはないが、写真を見る限りでは耳たぶは30センチ位伸び、首も40〜50センチにも伸びている。そして特に有名なのがカニバリズムである。食糧として摂取するのではなく、敵を食べてしまわないとその魂に復讐される、というような土俗信仰によるものらしい。記録によれば1972年に食人した男が警察に逮捕されたのが最後との事。
 ポンティアナックの町外れを通る赤道には赤い線はなく、赤道儀が立っているだけだった。欧米語やインドネシア語では均等に分割するもの、という意味なのだがどうして日本語では赤道になったものか。恐らく中国の天文学だか陰陽道から来た黄道の仲間なのだろう。赤道儀の下は博物館になっていたのだが、丁度改修中で閉まっており説明が受けられなかったので見ただけでは他の輪の意味が良く分からないのだが、赤道を示す円盤は方角から判断して直ぐに分かる。円盤は非常に薄く、肉眼でも赤道が走る線、即ち緯度0°の線は明白である。取りあえず北半球と南半球を1分間で30往復してみた。時間を延ばせば何往復でも出来るのだが、キリがないから1分間30往復で満足することにした。昔は飛行機で赤道を横切ると証明書のステッカーを呉れたものだが今は当たり前になってしまってそんな物はサービスにもならなくなった。でも1分間に30往復は日本人では珍しいのではないかと自負している。 
            

(北半球と南半球それぞれに足を踏ん張って撮った赤道儀の写真。真ん中の線に見える垂直の金属が実は大きな円盤である。)