NHK記者の情報漏えい

　NHKの放送記者が、警察のガサ入れの情報を相撲協会に流したとして取り調べを受けている。僕は元々NHKには辛口なので、その記者を庇う気は毛頭ないが、警察の遣り口には何とも釈然としない。警察は詳細は発表せぬままに、その記者を証拠隠滅幇助かなにかの罪で立件するかどうかを検討中と言う。警察が自分の事は棚に上げて、そんな一記者を追求する事に持って行き場のない不条理を感じる。
　ニュースを聞くだけだが、その記者は翌朝ガサ入れがあるという情報を仲間の民放記者から聞いたと言う。そこで懇意にしている時津風親方に、貸しを作る意味もあって情報を流したそうだ。それだけの話である。ならば、ガサ入れという警察の極秘事項が外に流れていた事の方が余程大問題なのではなかろうか。暴力団事務所のガサ入れが中々効果を上げないのも、概ねガサ入れの情報が事前に流れるからだと言う。つまり、警察内部に通報者がいるのである。
　翻って、記者の立場で考えて見ればどうであろう。記者は別に警察関係者から聞いた情報ではない。言って見れば裏も取れない噂である。そんな噂があるよ、と関係しそうな人に流すのは我々の周囲でもよくある事である。別にインサイダーでもなければ、違法でもあるまい。噂が独り歩きするだけの話である。それを警察が眦を吊り上げて追及するというのは、一体どういう料簡であろうか、どうにも解せない。警察内部に通報者がいる事は一切追求せずに、民間人を吊るし上げる警察の遣り口には、憤りを越えた不安を覚えるのである。
　大体、殊相撲協会の事になると警察が躍起になるのは、何か意趣があるからなのだろうか。相撲協会が暴力団と柵があるのは想像に難くない。昨今の暴力団は違法と合法の二つの顔を持っているから、警察としても簡単に尻尾を掴めず苛立つのも分かる。だからと言って、そこまで躍起になって相撲協会に八つ当たりする事もないのではないか。そんな事よりも、ガサ入れと言う捜査の最重要機密事項が外部に漏れる体質にこそ、真剣にメスを入れて欲しい。先頃の検察の不祥事と言い、今回の警察の失態と言い、両者ともその権力に溺れて少し仕事が杜撰になっているのではなかろうか。そして本当に怖いのは、戦時中を彷彿とさせる、権力を嵩にきた警察や検察の国民に対する暴虐なのだが、今の警察や検察が戦時中のそれと重なって見えるのは、僕が余りに悲観的だからなのであろうか。