baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 ジャカルタ道路事情

 インドネシアは昨今再び投資ブームに沸いている。中国の投資環境がここの処急激に悪化している反面、インドネシアは10年一日のごとくのんびりと推移しているから、相対的にインドネシアの投資環境が見直されているのである。事実インドネシアへの日本からの投資は最近増加している。インドネシアの経済も、自動車やオートバイの販売台数が東南アジアで1位の座を占めるに至ったほど好調である。従い、この頃の首都ジャカルタの交通渋滞は想像を絶するものがある。朝夕のラッシュ時に雨でも降ろうものなら、30分の道のりに2時間や3時間掛かる事は珍しくない。隙間があれば突っ込んでくる小型バイクも渋滞に拍車を掛けている。
 インドネシア中何処でも同じなのだが、ジャカルタもご多聞に漏れず道路事情が極端に貧困である。大通りと言えば南北に一本、北北西と南南東を結ぶ道が一本、まともな道は1200万人の人口があるジャカルタでこの2本でしかない。最近は随分道路建設が進んでいるが、それでも端から端までしっかり太い道路はこの二本ぐらいであろう。これ以外の道の多くは「鼠道」と呼ばれる迷路の様な細い路が主流となる。「ベチャ」と呼ばれる輪タクが辛うじてすれ違える程度の、曲がりくねった細い路なのである。
 二本のメインロードが交差する場所はスマンギと呼ばれている。スマンギとはインドネシア語で正にクローバーそのものである。スマンギは立体交差になっていて、交差点で右左折するための側道が典型的なクローバーになている交差点なのである。ここが常に交通渋滞のネックの一つになっている。
 スマンギが交通渋滞のネックであったのは、何も今に始まった事ではない。僕が始めてインドネシアに足を踏み入れた1984年から既にその兆しはあった。1990年に入ってスマンギの渋滞が益々激しくなったので、ジャカルタ市では北北西から南南東に走るメインロードの拡幅を図った。平坦な処では日本と違って簡単に土地の強制収用が出来るので道路の拡幅自体はそれ程大問題ではないのだが、立体交差で拡幅工事をするとなればクローバーは全部作り変えねばならない。交通の要衝の大工事なのであった。20年前の話である。
 当時僕の事務所は、このスマンギからすぐのビルにあった。事務所の窓からスマンギが目と鼻の先に見えたものである。ある日の夕方、仕事に疲れて何気なく夕日輝くスマンギの方角を見やったら、スマンギのクローバーにずらっと人影が夕日を背に並んでいる。恰も西部劇で、ふと気付いたら周囲の丘の上に無数のインディアンが並んでいる光景と全く同じなのである。びっくりしてよくよく見てみれば、無数のインディアンならぬインドネシア人は、小さな玄翁を振り振り自分の足元のコンクリートを割っているのであった。30mmぐらいの鉄筋が緊密に組まれた、頑丈この上ない鉄筋コンクリートを手作業で壊しているのである。だから丘の上のインディアンの如く、蟻の這い出る隙もないほどびっしりと人間が並んで、コンクリートをコツコツと叩き割っているのであった。これも、今は昔。