baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 駐ウズベキスタン大使

 今こんな本を読んでいる。例の如く何冊か併読しているので、未だ読み終えてはいないが、いたく面白く読んでいる。元々僕が感じていた事を改めて整理してもらったり、僕とは違った切り口で受け止められていたり、と言う意味で実に面白い。尤も僕はロシアの事はまるで知らないので余り偉そうな事は言えないが、とにかく米中ロの三大国に囲まれ、尖閣諸島北方領土問題を抱える日本の今後を考える上で大いに参考になる本である。
         
 著者は河東哲夫と書き「カワトウ アキオ」と読むのだが、以前著者が駐ウズベキスタン大使をされていた時に知己を得た。大変多才且つ精力的な人で、現役外交官の時にペンネームで長編小説を物した事もある。しかもその小説たるや、ロシア語版が先に出版され、日本語版は遅れて出版されたと言う。ロシア語も勿論自筆である。現役外交官を辞してからも、自分のブログを日英露中文で書いたり、今では「文明の万華鏡」という有料のURLも立ち上げて精力的に発信されているし、国内外で講義や講演に引っ張りだこの様である。当然の事ながら非常に聡明なのだが、のみならず人を射抜くような処があるので、僕の様な相当に厚かましい人間でも対面していると無意識の中に緊張させられてしまうのであった。その知見は僕から見れば決してユニークとは限らないが洞察力が鋭く、豊富なボキャブラリーを駆使しての表現が小気味良い。時には抱腹絶倒してしまう。他にも「外交官の仕事」だとか「意味が解体する世界へ」等々、著書は多い。 
 同じウズベキスタン大使を務めた中山恭子も本を出している。僕が読んだのは「ウズベキスタンの桜」という本で、これはどちらかと言うと、在任中の出来事が綴られている本である。特に1997年のキルギスタンで日本人他が拉致された時の苦労話は生々しい。この経験が、北朝鮮拉致問題解決に未だに尽力させているのであろう。元々東大の仏文科を出て大蔵省に入省しているのだが、その頃女性で東大に入るのは相当な勇気が要たと思われ、間違いなく当時を代表する才媛であったろう。ご当人とは僕がウズベキスタンへ行き始めた時と大使であった時期が異なるので直接の知己はなく、時々パーティーでお会いする程度であった。テレビで見かける様に上品で、飛び切りにおっとりした喋り方なのだが、実は麻雀が大好きと言う、見掛けからはちょっと想像できない面もあるらしい。もっともそうでもなければ参議院議員などは勤まるまい。
 ウズベキスタンの桜と言う表題は、中山が大使をしていた時にウズベキスタンに桜を送ったエピソードから付けられている。首都タシュケントに、日本人捕虜がシベリアから連れて来られて建設したナヴォイ劇場と言うオペラハウスがある。このオペラハウスの前庭に友好の桜を植えたのである。僕の現役時代の仲間も頼まれて、桜の苗木を日本から10本担いで行ったそうである。残念ながら気候が違い過ぎるのか、僕が行った時には既に何本かは枯れてしまい、残った桜も辛うじて生き延びているといった風情であった。今は如何なっているだろう。このナヴォイ劇場は1980年頃の事だと思うのだが、ウズベキスタンで大地震がありタシュケントの建築物が悉く崩壊した時に、唯一崩れずに残った建物だそうで、日本人が建てた建造物はやはり違うと語り草になっている。こういうエピソードが、彼の地の日本製品への信頼にも繋がっている。
 同じくウズベキスタンの初代大使であった孫崎享(マゴサキ ウケル)は、屡テレビで竹島は元々韓国領などと発言しているから今や有名人の類いであろう。彼も当然の如く多くの書を著わしている。彼とは日本で知己を得て、一時はお宅にお邪魔して奥様心づくしのサンドウィッチをご馳走になったりもしたのだが、どうも彼の主張が理解は出来るのだが僕の腹にはストンと来ないので本は1-2冊読んだだけである。しかし直に接すると非常に真面目な人で、しかも外務省の情報局出身なので情報関連の話をすると話は合った。
 と言うのは僕も一時期、インドネシアの情報局や裏社会の人間と随分付き合いがあったのである。中には米本土でFBIやCIAの施設で訓練を受けて来た本物のスパイもいたりした。彼らの手に掛かると、デモを組織したり解散させたりは朝飯前、平気で人を消してしまう連中であった。僕が懇意にしていた某将軍も、勿論それなりの理由はあったのだが、ある日彼らの手に掛かってしまった。複雑な気持ちで葬儀に参列したが、その死に顔は妙に蒼く浮腫んでいた。毒殺だったのである。
 勿論僕はスパイをする訳でもされる立場でもなかったが、インドネシア激動の時期に日系企業の安全の為に彼らの情報と、時には協力が必要であったのである。彼等は信じられぬほど詳細に日系企業の内部事情を把握していたし、周辺を取り巻く環境も実に正確に知っていた。孫崎とは日本の諜報能力が余りにお粗末という話をした事がある。
 河東哲夫の本の話から大分脱線してしまったが、こうして見ると僕の知っているウズベキスタン大使は皆本を出している。そして皆東大出身である。やっぱり大使は偉いのかな?