baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 ジェットスキーに挑戦してみて

 今年は特殊小型船舶の免許を取った。小型船舶の免許制度が数年前に改定され、ジェットスキーは他の免許に関係なく特殊小型船舶免許がないと乗れなくなった。理由は言うまでもなくジェットスキーによる死亡事故が多かったからだ。
 ジェットスキーは、水上オートバイとも水上バイクとも呼ばれる、小型だが高速の乗り物である。この乗り物は若者に人気が高く、見せびらかしが多いそうだ。恰好良いところを若い女性に見せようと遊泳区域に近付き、わざとスピードを出して見せびらかすので、少し沖で泳いでいる人の頭に高速で衝突してしまい、死亡事故が多発した。そのため、ジェットスキーだけは特別の免許にしたと聞く。大分昔、暴走族ご用達の大型自動2輪の免許を難しくしたような話と似ている。
 小型船舶でも特殊でも、試験科目には人命救助という課題があり、試験官が放り込む頭の白いブイを回収する試験がある。試験官が放り込む事は分かっているし、そのタイミングも分かっているにも拘わらず、ほんの少し離れるだけで波間に浮かぶ白いブイが見え難くなる。増して、人が泳いでいるかどうかも定かではない水域で黒い頭の遊泳者がいても、見落とすのは不思議ではない。だから、本来遊泳者がいそうな処には近付いてはならないし、万が一近付く場合には超低速走行が原則なのである。という訳で、ジェットスキーの講習では殊の外安全運転の指導を受ける。
 それでも、今年もジェットスキーでの死亡者のニュースを聞いた。僕が気が付いただけでも、霞ヶ浦で転覆して同乗者が溺死し、運転者だけが岸まで泳ぎ着いた事故と、琵琶湖で三人乗りをしていて消波ブロックに激突して、運転していた若い女性が死亡した事故である。こちらは、三人とも無免許であったそうだ。ジェットスキーは不安定な乗り物だから、転覆は珍しくないが、転覆しても一人で起こせる乗り物である。また、必ず救命胴衣をつけなければ乗ってはいけない法律もある。それが、どうして溺死する事故になってしまったのか分からない。無免許ならば何をか言わんやである。何れの事故も、一般の人を巻き添えにしなかったのがせめてもである。
 ジェットスキーにはシットオン・タイプとスタンディング・タイプがある。シットオンとは文字通り座って乗るタイプで、2人乗りと3人乗りがある。船艇は幅が広く安定していて、普通に乗る分には実は誰にでもすぐに乗れる。スピードが出るので危険ではあるが、乗ることの難易度は遊園地の幼児用の電動自動車と大差ない。スタンディングは一人乗りで、同じジェットスキーとは言え似て非なる乗り物である。艇体の幅は狭く、非常に安定が悪い。止まっている時にはそもそも乗船できない。その代わり一旦走り出して乗船してしまえば、飛んだり跳ねたり潜ったり、ウィーリーも出来るし大変軽快な操縦が楽しめる。
 僕はバリ島で何度もシットオン・タイプには乗っている。本当はバリでも免許がいるらしいのだが、ホテルのプライベートビーチでは免許証がなくてもレンタルさせてくれる。そもそもバイクが好きなのだから、水上バイクも面白い。加速が素晴らしいから、あっという間に25ノットぐらいは出る。しかし、波に当たって跳ねたり急旋回したり、面白い事は面白いのだが、だんだん飽きてくる。そんな折に知り合いに、乗るならシングルジェットと言われて、猛然と知りたがりの本能がくすぐられたのだ。
 試験はシットオン・タイプでやるし、筆記は元々小型船舶一級があるので、試験は全く問題なかった。免許が届いたので、早速スタンディングの体験スクールに申し込んだ。ウェットスーツを着てくれ、という。昔ダイヴィングをしていた事があるので、その頃はウェットスーツも持っていたのだが今はない。仕方がないので、これもレンタルする事にした。そしてスクールの当日。先ずインストラクターが乗船の仕方の手本を見せてくれた。止まったままでは安定が悪くて乗船できないのは既に書いた。だから、先ずは下半身は水中に入れたまま、上半身だけを艇体に乗せてエンジンを掛けて低速で走り始める。走り出せば艇体は安定してくるので、そこで足で水を蹴りながら、上体の力で全身を甲板に引き上げるのである。この乗り方の説明を聞いて、初めてウェットスーツが要る理由が呑み込めた。
 見ていたらそう難しい様にも見えないので、早速やってみた。ところが、あれっ、全然ダメだ。体が全く持ち上がらない。後ろに走る水に下半身を引かれて、上体を持ち上げるどころかしがみついているのが精いっぱいではないか。何度も転覆し、水の中に放り投げられながらも必死に試しているうちに、早や息は上がり、上腕の筋肉が悲鳴を上げ始める。恥ずかしいが、一休みさせて貰う。
 しかし何度やっても上手く出来ない。思った以上に筋力が低下してしまっているようだ。自分では、日頃重いバイクを何とか取り回ししているし、これ程とは思っていなかった。これでは乗れないままにスクールが終わってしまうので、走り出す前に片膝だけ艇の後ろに当てても良いかインストラクターに聞いたら、別に決まりはないからどうぞ、とのこと。ただ、この乗り方だと沖に出た時には出来ないでしょうから、慣れるまで、という条件が付けられた。
 膝を当てておくと、乗りこむ時に上体に加えて片足の力も使えるので、これだと何とか乗る事が出来た。でも未だ立てない。立とうとすると艇体のバランスが崩れて転覆しそうになる。座ったままだと、バイクと同じ要領なのでバランスは良いのだが、そこから立てない。結局初日は正座から立て膝するところまでで終わってしまった。想像以上に難しい。
 後から聞いたら、初めは若い人でも非常に苦労するそうだ。しかも、慣れても2時間も乗ると手足がパンパンになり、それ以上は乗れない激しい乗り物だそうだ。僕はといえば、左腕の筋肉を痛めたようで2ヶ月位腕が痛かったので、今年は未だ2度目の挑戦をする勇気が出て来ない。こんな筈ではない、と思いながら現実に打ちひしがれている。