baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 気候と人間の性格

 温暖な地に住む民族と寒冷の地に住む民族では、明らかに性格が違う。言葉からして、寒冷地の人は口を大きく開けない。ロシア語やポーランド語がそうである。日本でも東北地方の言葉は他の地域に比べて同じ傾向がある。
 厳しい冬がないと、人間の性格が呑気でお人好しになるのはインドネシアで実感した。そもそも食べ物に困らない地だから、何にでも大らかなのである。例えば運転手についての笑い話。昔は、運転手はだいたい子沢山でいつもお金がなくてピーピーしていた。昼飯の代金にもしばしば事欠く。或る日誰かが仲間の運転手にお金を借りてお昼を食べた。そのお金を貸した運転手が、自分もお昼を食べようと思ったら財布が空だった。なけなしのお昼代を仲間に貸してしまっていたのだ。仕方がないので自分は昼飯を我慢した。僕の会社の運転手の実話である。仲間の運転手が笑い話にして、笑い転げていた。当人もニコニコと一緒に笑っている。バカ、と言ってしまえばそれまでなのだが、彼は普段は決してバカではないし、やはり僕はバカとは違うように思う。底抜けのお人好しで、しかも計画性がないのである。
 インドネシアのような土地では、例えば食べ物を蓄えても直ぐに腐ってしまうので、長い間食べ物は要る時に要るだけ採取して、それでお終いという生活を続けて来たのではなかろうか。実際、お米でもちょっとの間米櫃に入れて置くと、あっという間に虫が湧く。まして生ま物は、肉や魚は言うに及ばず、果物でも野菜でもおよそ日持ちが悪い。だから、先の事を考えて食べ物を残しておくとか蓄えておく、という文化が発達しなかったのだと思う。ずっと後世になって使われ始めたお金については、尚の事然り。勿論今は貯金をする人もいるし冷蔵庫もあるけれど、元々蓄えるという文化に馴染んでいないのだ。勿論これはマレー系のインドネシア人の話で、アラブ系、特に中国系やインド系はまた別である。こういう文化は僅か数ジェネレーションで変わるものではないから、その違いは際立っている。
 例えば、仕事で金を貸す。中国系やインド系はちゃんと毎月の売り上げから返済分を差し引いて別にしておき、毎回きちんと返済してくる。返して来ない時は確信犯で、踏み倒しに来ているのである。だから返済遅延の言い訳から何から全部周到に用意してある。借金の額が大きければ、事前に財産の名義を書き換えるなどという事も珍しくない。一方マレー系は、日銭が入ると嬉しくなって使ってしまう。親戚縁者、友人に奢ったりして、皆が楽しく良い気分になる。だから、返済日になっても日頃の準備がないから返せない。返せない事は申し訳ないと思っているし、わざとではないので下手な言い訳も無しに、悪びれずに謝りに来る。そしてまたあまり当てにもならない約束をして帰って行く。仕事絡みだと正直困るのだが、でも何だか憎めないのである。
 考えてみれば厳しい冬がない。一年中温暖な地域は、一年中食べ物も魚も自然に湧いてくる。だから、そこに住む人間もどこか長閑になるのであろう。インドネシアのマレー系の人は、気候と同じく人間もそこはかとなく温かい。でもお金を貸す時は、皆が皆ではないが、一応初めから返って来ない覚悟をして貸さないといけない。そんなインドネシアだが、やはりこの20年で少しづつ世知辛くなって来ている。