baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 親友

 今日は午後仕事で外出し、夜は友人の演奏会を聴きに池袋まで出直した。一日中寒くて、しかも夜にはまた雪が降り出して、ジャカルタから帰ったばかりの僕は凍えてしまった。それでも終演後にワイワイと焼酎を浴びて体を温め、先程何とか無事に生還した。
 僕の友人はパリに本拠を置くプロの棒振りで、もう40年来の友人である。彼が芸大の学生だった頃、僕はアマチュアの学生オケでコンマスをやっていて、彼が僕のオケの指導に来始めてからの付き合いである。その頃は、彼との付き合いが一番長いのだけれども、手塚幸紀とか小泉和弘の棒でも弾いているので、今思うと随分贅沢な時期であった。一時、僕が猛烈サラリーマン時代の典型のようなこき使われ方をして、日本と欧州で、未だe-mailもない時だから連絡を取る暇もなく没交渉になった時期もあった。
 それでも彼が日本のオケを引き連れてジャカルタに演奏旅行に来た時にはお互いに忘れている筈もなく、十数年ぶりの再会を果たし、それ以降は現在まで親密な付き合いをしている。更に、何の縁か彼がインドネシアのプロのオケの音楽監督に5年ほど前に就任してからは、僕も彼の演奏を聴きにわざわざジャカルタまで追っかけをしたり、コミュニケーションが難しい時に横から手助けをしたりもしている。20数年もパリに住んでいる彼とジャカルタのオケにはかなりのコミュニケーション・ギャップがあるからそれなりに手伝い様もあるのだ。それに、彼が音楽監督に就任してからのそのオケの長足の進歩には目を見張るものがあり、音楽もインドネシアも大好きな僕は自ずと何か力になれないかと余計な世話を焼きたくなるのである。
 今日は池袋の東京芸術劇場での演奏会であったが、今日が正にメンデルスゾーンの生誕201年の正月誕生日になるそうで、「イタリア」と漆原朝子さんのコンチェルトホ短調、そして締めはレスピーギの「ローマの松」であった。「ローマの松」の4楽章ではブラスが客席後方からワンワンと聞こえてきて、流行りの6−スピーカーの様な大迫力の熱演であった。
 彼は僕と同い年の、本当に音楽を愛する男である。或る時、ジャカルタの彼のホテルで、ベッドサイドの彼の読みかけの数冊の本を目にしたのだが、全て音楽関係の単行本であった。藤沢周平の如き面白ろ可笑しい本は一冊もなかった。そのくせ、くそ真面目かと言うと決してそんなことはなく砕けた良い男である。そして彼が何よりも凄いのは未だに確実に進歩しているという事である。
 人間、人生のバックストレッチに入ると効率的な時間の使い方と、時間を共有しても無駄にならないない友人を選ぶようになると思う。少なくとも僕はそうである。そんな中で、彼のような前向きに全人生を賭けた仕事にいつも邁進している友人は、掛け替えのない刺激であり、僕も彼とは歩む道は異なるけれども、彼にもそれなりの刺激を与え続けようと意を新たにするのである。