baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 今年は正月が一日延期 〜 インドネシア

 インドネシアの回教正月は、本来は今日からの予定であった。つまり、苦しい断食は昨日で終わり、昨日の断食明けの夕食から今日の回教正月元旦へと、一年で一番楽しい時が巡って来る予定であった。インドネシアの今年のカレンダーは、今日と明日が休日になっていて、今日の処に回教正月と書いてある。ところが最近出された最終的な政府発表では、明日が回教正月とされる事になってしまった。これは、回教暦は陰暦で、特に正月は直前にイスラム教に精通している人が空軍のジェット機で空に上がって、月をじっくり観察して最終判断を下すのが慣例だからである。その最終判断で、今年は正月が一日遅れる事になってしまったのだ。僕達から見れば、7年も掛けて60億キロも旅をして、3億キロも離れた長径僅か500mの小惑星から表面の土を持って帰れる現代に、月の満ち欠けなどコンピューターで計算すれば100年先の事まであっと言う間に分かるだろうにと思う訳だが、宗教では精神面を重んじる為か、未だに伝統的な仕来たりを守って肉眼で判断する。こういう処はどう考えてもイスラム本来の、進取の気性に富んだ精神とは乖離していると僕は思うのだが、何れ門外漢が口を出す事でもない。
 もっとも、インドネシアには大手の回教団体は二つあり、最大手はナフダトゥール・ウラマ、通称NUと言う伝統的イスラムを信奉する団体で政府はこちらに属しているのだが、もう一つのムハマディアと言う改革派イスラムの団体は、何時も政府の公式休日よりも一日早い回教正月を宣言する。しかし大半の国民はNU、或いは政府の決定に従うし、事務所や工場の休みは政府のカレンダー通りとなるから、皆もう少しで断食が明けると楽しみにしていたのに、土壇場に来てすっかり当てが外れてしまった事になる。
 僕の知人は断食月にメッカに小巡礼に行っていて、昨日ジャカルタに戻って来た。夜、断食明けで大騒ぎをしているであろう頃を見計らってお祝いの電話を入れたら、「いやっ、帰国してみたら正月が一日延びていたのだよ、だからもう一日断食を頑張らなければ」と言っていた。顔が見えないので、淡々としていたのかがっかりしていたのかは分からないが、明らかに断食の緊張が一旦緩んでしまったので明日は頑張らねば、と言う決意は聞えて来た。そもそも昔と違って今はジェットラグがあるから、断食中にメッカに行くのは大変な苦行である。初日は22時間断食を強いられたそうである。どういう計算か良く分からないが、時差の関係で時間が逆戻りしてしまい、しかも断食明けの時間にも慣れぬ旅先で直ぐには物が口に入らずにそんな事になったのであろう。辛かったそうであるが、飛行機で長旅をしている間中飲まず食わずで22時間は、それは辛いと思う。良くやるなぁ、と言うのが率直な感想である。本当は旅の間は断食は免除されるのだが、メッカにまで行こうと言う敬虔な人達には、そんな特権を行使する気はさらさらないのであろう。
 とにかく1年に一度の、待ちに待った楽しい正月の大騒ぎは今夜から始まる。インドネシアでは、今日は特別な「喜捨」をする日だそうで、僕にも一枚乗らないかと誘われたので物の弾みで僕の分も一緒に施して貰う事にした。現地の人は現金の他に断食明けのご馳走を礼拝所に届けたりするのだが、僕はそんな事は出来ないからお米1kg相当の現金を近所のモスクに献金して貰うのである。僕の喜捨は宗教的なものではなく、お祭り気分と言う方が相応しい。大晦日の夜の、街中が浮き浮きした気分を思い出し、ついついつられてしまったものである。