baiksajaの日記

目前の一秒を大切に

 イスラム国〜ISIS

 昨日に続き、今一つイスラム教関連で。
 イラクとシリアの境界に勢力を張り、独立国家を宣言した「イスラム国」が、今や世界にとってもイスラム社会にとっても最大の脅威になりつつある。何故なら「イスラム国」は既に、単なるテロ組織の域を超えて、莫大な資金力と戦闘員と近代的な武器を保有し、独立を宣言し、恐怖を植え付ける事で周囲の人間に恭順を強要しながら急速に勢力を拡大している、未曽有の反社会組織になっているからである。恐怖を植え付ける為とはいえ、その残虐さは目を覆う。同胞である筈のイスラム教徒を多数虐殺し、同じくイスラム教徒の婦女子を多数拘引して暴虐の限りを尽くし、果ては無実の欧米人の頸部を切断して虐殺し、その映像をYou-Tubeで全世界に流すと言う狂気さである。
 イラクの軍幹部をこのやり方で虐殺し、その映像に怯えて逃亡したイラク軍から武器を略奪したと言う。その結果、ミサイルを含む近代兵器や、装甲車、重火器などを多量に保有してしまい、今やその武力はイラク正規軍のそれをも上回るとされる。資金面では、イラク北部の銀行を連続して襲い、銀行からだけでも4〜6億ドルの現金を収奪したとも言われる。そしてイラクの油井やパイプラインを一部支配して、闇市場原油を売り捌き、更に莫大な現金収入を得ているらしい。戦闘力で言えば、その人数には諸説あるが、一説では3万1,500人の戦闘員を擁し、内15,000人が欧米など海外からの志願兵だと言う。
 戦闘員の多さもさることながら、欧米からの白人を含む海外からの志願兵が多いのが前例を見ない特異な点である。如何して欧米人を惹き付けるのかは分からないが、医者や弁護士などのインテリを取り込んだオーム真理教に通ずると唱える人もいる。実際、若者の欲求不満に訴える何かが共通しているのかも知れない。豪州ではつい先月、豪州国内で無実の市民を同時に処刑してその映像をYou-Tubeで全世界に流そうとした豪州国籍の15人の白人が治安部隊に逮捕されている。
 この組織をテロ組織と定義付けて、米国がイラク領のみならずシリア領の「イスラム国」拠点にも空爆を開始した。英豪もこれに追髄した。しかし空爆だけで3万余の戦闘員を殲滅する事が不可能な事は明らかで、米国は地上戦の為にイラク正規軍やシリア反政府軍を更に梃入れすると言う。しかし幾ら米国が梃入れしようと、これらの軍事組織が狂信的な「イスラム国」に勝てるとは到底信じられず、何れは米欧豪が地上軍を投入するか、或いは徒に「イスラム国」を刺激し同調者を増やすだけの結果に終わるか、その何れかであろうと思う。米国も分かってはいる筈だが、国内の支持基盤が脆弱極まりないオバマには、特に中間選挙前では、空爆が精一杯なのであろう。
 他方、中東のアラブ諸国の中には米国の「イスラム国」爆撃に共闘する国もあるが、陰で「イスラム国」に武器や資金を援助していると囁かれる国もある。中東諸国では未だに王制が巾を効かせていて、一部の王族が全ての富と国民を掌握している現実の下では、王制を守る為の政治の力学が世界の良識と相反する事があるのは当然である。最もイスラム教の戒律が厳しいと思われている中東諸国が、実際には決してイスラム教に則った政治をしている訳ではないという現実も、イスラム教を益々難解にしている。例えば、中東の一見敬虔なイスラム教徒に見える王族の多くは、決してイスラム教に強く帰依している訳ではなく、むしろ陰ではその教えに背いている事が多い。週末にバーレーンの五つ星ホテルのバーに足を踏み入れれば、その現実は一目瞭然である。
 そして冒頭の所見に戻るのだが、この「イスラム国」の出現に一番被害を受けているのは、西側社会でも中東の王制国家でもなく、実は純粋なイスラム教徒から成るイスラム社会ではないかと思う。そもそも主要な宗教ならば、人間がその教えを忠実に守る限りは何れの宗教でも、戦争など起こり得る筈がない、平和を説く宗教である。言葉を変えれば、考えれば考える程、神も仏もアッラーも、所詮は同じ存在であると思える程その説く処の本質は同一である。イスラム教も勿論、平和を重んじ暴力を戒める宗教である。にも拘らず、米国大統領と雖もイスラム教徒とテロリストを混同する程、西側社会ではイスラム教についての知識が乏しい。イスラムを自称する、イスラムの原理原則からは全く逸脱している狂信集団の存在が、西側の偏見を助長している事も事実である。
 そこへ来ての、ずばり「イスラム国」を名乗る上に、稀代の残虐非道な集団の出現である。「イスラム国」はスンナ派の過激組織、などと言う解説もあるが、本来のイスラム教から既に大きく逸脱しているのだから、それがシーア派だとかスンナ派だとか言う議論は既に無意味である。しかしそんな理屈とは無関係に、「イスラム」と名の付く物は全て残虐の象徴の如き印象が蔓延している昨今のイスラムへの偏見が更に助長されかねない気違い集団の出現は、間違いなくイスラム社会にとっては当面の最大の脅威であろうと思う。